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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)876号 判決 1961年8月08日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人林百郎の上告理由第一点について。

原判文を通読すれば、本件土地建物は、「若し弁済期に借受金の支払をしないときは、担保物件を自由に処分し得べき」約でいわゆる譲渡担保に供されたものであり、弁済がなかつたからといつて、担保権者が当然代物弁済的に右物件の完全な所有者となるわけではなくて、これを「処分してその売得金中から貸付金の回収をなし得べきもの」と認定されたものであることが明白である。それ故、原審の右判断には何ら所論の如きくい違いはない。

そして、譲渡担保における右のような処分のためには、担保権者において担保権設定者に対し担保物の引渡を求め得るものと解するのが相当であるから、原審が被上告人に右処分の権限あることを理由として上告人に対する本件担保物件からの退去及び引渡請求を認容したのは、正当であつて、何ら所論のような違法はない。

同第二点について。

民事判決は、既往の刑事判決の事実認定に必ずしも拘束されるものではなく(最高判昭二五・二・二八民集四巻二号七五頁、同昭三四・一一・二六民集一三巻一二号一五七三頁参照。)、ただ、これを当然しんしやくすべき場合にしんしやくした形跡がないときは、審理不尽となる場合がある(最高判昭三一・七・二〇民集一〇巻八号九四七頁参照。)にすぎない。

ところで、所論乙五号証の刑事判決は、原裁判所と全く構成を異にする裁判所においてなされたものであつて、しかも原裁判所はこれを十分しんしやくしつつこれと異る事実認定にいでたものであることが、原判文上明白である。されば、原判決には所論の違法はない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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